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中小企業におけるサステナビリティ経営の留意点 人的資本経営編 第10回

1.前回の振り返り

前回(第9回)は、人事制度の3本柱となる「等級制度・賃金制度・評価制度」の基本的考え方について解説しました。今回は、構築した人事制度の運用ポイントについて解説します。

2.運用における3つの重要ポイント

人事制度は、制度をつくることが目的ではありません。人事制度は、社員が明日も元気に会社に来れるようにするための仕組み(=手段)です。手段は、うまく使いこなすこと(運用)がとても重要になります。運用の重要ポイントとして(1)経営陣の社員に対する人間観  (2)管理職の現場マネジメント (3)人事部門の役割について解説します。

(1)経営陣の社員に対する人間観

①人間観

「社員は宝」「人材は人財」「企業は人なり」などは、企業経営において古くから言われている言葉です。最近は、ヒトは使い捨ての資源(人的資源)ではなく、人的資本と言われ人的資本経営が注目され数年が経過しています(人的資本経営を説いた人材版伊藤レポートは2020年に公表)。

また、企業経営の定義にはいくつもの定義があると思いますが、筆者は「企業経営とは、他人を通して事を成す」という定義に共感しています。社長一人では「事≒ビジョン」を達成することはできず、「他人=社員」の協働あってこそ達成することができます。人事制度は、この「他人=社員」が明日も元気に会社に来れるための重要な仕組みとなります。人事制度構築の際には、経営陣における社員への「想い≒人間観」を確認し制度に反映することが重要です。そして制度構築後の運用段階においても経営陣が熱く人間観を語り続けることはとても重要となります。

②言行一致

社員に対する人間観について語っている言葉と日々の経営マネジメントの現場における言動が一致していることが極めて重要となります。社員は経営陣の現場における言動に敏感であり、きれい事かどうかを見抜きます。

(2)管理職の現場マネジメント

①制度を正しく・深く理解する

管理職は、人事ポリシー(経営陣の人間観)、制度の狙い・目的、制度運用のポイントなどを正しく・深く理解することが重要です。部下から質問等があった場合には、的確に回答することが求められます。「それは人事に訊いてくれ」は許されません。管理職は、人事評価権を持ち、部下の人材育成や動機づけの役割を担っています。しっかりとした対応が求めれます。

②人事評価の正しい運用

人事制度の中で一番管理職の役割が重要なのが評価制度です。管理職においては、評価の仕組みを正しく・深く理解した上で日々の部下の仕事ぶりをみる(見る・観る・視る・診る・看る)ことが重要となります。部下の仕事の結果だけではなく、そのプロセスをしっかりみた上で評価基準に照らした評価を公正に行うことが求められます。プロセスをしっかりみているからこそ、育成のためのOJTが可能となり部下の承認欲求を充たすことが可能となります。

③シャインの人間モデルを知る

管理職は、経営陣の人間観を深く理解し下記に示す「シャインの人間モデル」を知った上で人事制度の運用に当たることをお勧めします。

上記「シャインの人間モデル」のように人(=部下)は複雑です。今の言葉でいえば「多様性」に富んでいます。部下一人ひとりは、何に関心が高く、何に動機付けられるのかを意識したマネジメントが求められます。また、上記の人間モデルは同じ部下であっても部下本人のライフステージによって異なると考えられます。部下の私生活の環境変化等の情報もある程度知っておくことは重要と考えられます。

(3)人事部門の役割

①制度の周知徹底

全社員に対して構築した制度を丁寧に説明することが重要です。説明における重要ポイントは、制度の狙い・目的を明確に伝えることです。どんな課題を解決し、どんな狙い・目的をもって制度構築したかをしっかり説明します。そして何より、上記2(1)で述べた経営陣の人間観を熱く伝えることが求められます(経営陣に直接語ってもらうことをお勧めします)。

また、管理職向けには「評価者研修」などにより徹底的に人事制度の理解を深めてもらうことが肝要です。人事制度の運用の現場はラインです。運用がうまくいくかどうかはラインマネジメントを担う管理職にかかっていると言っても過言ではありません。

②制度の公正な運用

制度を運用し始めるとイレギュラーな事案が発生します。現場ラインは、当該事案のみに着目し制度とは異なる運用ができないかを人事部門に問合せします。心情的には異なる運用もありかと考えられる事案もあるかも知れませんが、制度と異なる運用はNGです。制度を構築し、制度どおりの運用をすることによりフェアネス(公正性)を確保することがとても重要になります。制度が合わないと客観的に考えられる場合には、制度を改定してフェアに運用することが求められます。

次回は、目標管理制度におけるモニタリングのポイントについて解説します。

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