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第2回記事 20250609近年の中小企業への経済政策の転換と展望

近年、我が国の政策当局(特に中小企業庁)の中小企業・中堅企業(※)への支援方針は大きく転換しています。企業の自律的な成長ガバナンス強化への期待が高まっており、単に企業を守るだけでなく、企業自身が変革し、新たな価値を創造していくことを積極的に支援する姿勢へと変化しています。

ここでは、現在までの政策の経緯と、今後の経営支援ビジネスの方向性についてご説明します。

1. 中小企業庁の支援方針の変化

「第40回中小企業政策審議会総会資料 今後の中小企業経営への提言及び中小企業政策の方向性」(2024年9月2日発表)によると、中小企業庁の支援方針は、これまでの「存続支援」や「セーフティネットの提供」といった側面から、より以下のような点に重点を移しています。

「稼ぐ力」の強化:地域資源の活用、高付加価値化、DX(デジタルトランスフォーメーション)やGX(グリーントランスフォーメーション)への対応、グローバル展開を促し、企業が自力で収益を上げ続ける力を重視しています。

「自律的成長」の推進:経営者が自社の本質的課題に気づき、意識改革・行動変容を起こすことを後押しします。事業再構築、M&A、事業承継、スタートアップ支援を通じて、企業の成長を加速させる方針です。

「外部環境変化への適応」: 少子高齢化、人手不足、コスト上昇といった構造的な課題に対応し、生産性向上や経営改善・事業再生に早期に取り組む「筋肉質な経営」を求めています。

この変化は、企業が自ら変革し、新たな価値を創造していくことを積極的に支援する姿勢への転換と言えます。

参照先:中小企業庁 中小企業政策審議会(第40回) 配布資料(令和6年9月2日) https://www.chusho.meti.go.jp/koukai/shingikai/soukai/040/040.html

2. 中小企業エクイティ・ファイナンス・ガイドブックにおけるガバナンスの強調(2021年12月発行)

「中小エクイティ・ファイナンス活用に向けたガバナンス・ガイダンス」(経済産業省・中小企業庁)は、これまで中小企業があまり活用してこなかったエクイティ・ファイナンス(株式発行による資金調達)の重要性を高め、その活用を促進することを目的としています。

このガイドブックでは、エクイティ・ファイナンスの実務に役立つ情報とともに、中小企業におけるガバナンスの必要性が強く訴えられています。

エクイティ・ファイナンスでは、出資者(投資家)は企業の将来の成長とリターンを期待しており、経営の透明性、事業計画の実現可能性、経営陣の健全な意思決定プロセスを重視します。ガバナンスが不十分と判断されると、投資家からの信頼を得にくく、適切な評価を受けられない可能性があります。

そのため、中小企業のエクイティ・ファイナンスを円滑に進めるためには、企業価値を正しく評価してもらい、投資家を安心させるためのガバナンス体制が不可欠であると提言されています。

参照先:「中小企業エクイティ・ファイナンス・ガイドブック」(経済産業省) https://www.chusho.meti.go.jp/koukai/kenkyukai/equityfinance/guidance.html

3. 2025年2月の官邸「中堅企業成長ビジョン」とガバナンス

2025年2月に官邸で策定された「中堅企業成長ビジョン」でも、中堅企業のガバナンスが自律的成長に向けた重要な課題として取り上げられています。このビジョンは、日本経済の新たな成長の原動力として中堅企業を明確に位置づけ、その成長を阻害する要因として、従来の資金調達慣行における課題やガバナンスの機能不全を克服することを求めています。

政策当局は、中堅企業がさらなる成長を遂げるためには、経営の質を高め、外部との建設的な対話を通じて企業価値を向上させるガバナンスの強化が不可欠であるという認識を一貫して示しています。

このビジョンでは、中堅企業に対して、金融機関やファンド・投資家などの「伴走支援者」との中長期の成長に向けた対話・関与を強化し、株主だけでなく、顧客、従業員、地域社会といった幅広いステークホルダーからの成長期待を集めることを促しています。さらに、独立社外取締役の活用などにより、取締役会が経営陣に対する助言や監督を適切に行うよう、ガバナンスの強化を明確に求めています。

参照先:経済産業省ポータル「中堅企業政策」より「中堅企業成長ビジョン」および「中堅企業成長支援パッケージ」を参照しています。 https://www.meti.go.jp/policy/economy/chuuken/index.html

4. 今後の施策の方向性

今後、中小企業(特に中堅企業)に対してガバナンス強化を訴える施策は、さらに登場する可能性が高いでしょう。現在の政策の方向性から考えられる施策としては、以下のようなものが挙げられます。

ガバナンスに関するガイドラインの策定・普及: 上場企業向けの「コーポレートガバナンス・コード」のような厳格な適用ではなく、非上場の中小企業・中堅企業の実態や成長ステージに合わせた、より実践的で分かりやすいガバナンスの原則やベストプラクティスが示される可能性があります。

専門家活用支援策:社外役員(独立社外取締役・監査役)の招聘、内部統制システムの構築、リスク管理体制の整備などに要する専門家費用に対する補助金や税制優遇が検討されるかもしれません。

情報開示・対話促進の枠組み:金融機関や投資家、サプライチェーンのパートナーなどとの建設的な対話を促すための情報開示フォーマットや、対話の機会を設ける支援策が登場する可能性があります。

経営者教育・研修プログラム:ガバナンスの重要性や具体的な導入方法に関する経営者向けの教育プログラムが強化されるでしょう。

(※)中堅企業の定義について

これまで中堅企業には法律上の明確な定義がありませんでしたが、2024年に改正された「産業競争力強化法」において、新たに「中堅企業者」が定義されました。「中堅企業者」とは、「常時使用する従業員の数が2,000人以下の会社及び個人(中小企業者を除く)」を指します。

このように「中堅企業」は、中小企業の定義を超えるものの、大企業(従業員数2,000人超)には属さない、新たな政策対象として明確に位置づけられました。

さらに、経済産業省の政策では、中堅企業の中でも特に成長意欲の高い企業を「特定中堅企業者」と定義し、賃金水準や国内投資への積極性などの要件を設けて、より集中的な支援を行う方針です。

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